突然ですが、(2×3×3×3×2×2)×4は、いくつでしょうか。
答えは216です。
これは、私の実感としてのひきこもりのパターンと状態の数を表しています(科学的証拠はありません)。
私は、これまでのひきこもり家族相談の経験と自分自身の当事者としての体験から、「ひきこもり」には、ざっと(2×3×3×3×2×2)×4=216パターンあり、さらにそれら一つ一つに4つずつの「段階」があると考えています。
ちなみに、今日お伝えしたいのは、そんな「オレ理論」の正しさなどではありません。
そうではなくて、お伝えしたいのは以下のことです。
「原因探し」や「犯人探し」には、あまり意味がない。
「親が悪い」とか「親の育て方が悪い」とかではない。
「親が変われば治る」わけでもない。
家族関係が良くならなければ解決しないわけでもない。
支援には「引き出しの多さ・総合性」と「精確な見立て力」が求められる。
ということです。
ご関心のある方ために、以下、冒頭の数式の意味を解説します。
ひきこもりのパターン
1.ひきこもりの原因となった身体疾患や精神疾患が:ある/ない
ひきこもりには、その原因としての身体疾患・精神疾患・障害がある方と、ない方がいます。
統合失調症や発達障害がその「1次的原因」にある方や、「アトピー性ひきこもり」などの方のことです。
「ひきこもり」は、「原因としての」身体疾患や精神疾患の有無で、まず2通りに分かれます。
2.家族関係が:すごくいい/ふつう/明らかに大変
ここでさらに3通りに分かれ、先の2通りと掛け合わせて合計6通りになります。
家族関係が「すごくいい」とは、家族が互いの顔を見るだけで元気が出たり「ああ自分は愛されてるなあ」と感じたりできるような関係性にあることをいいます。
互いに「ありのまま」で無条件に尊敬し尊重し合っている家族です。
大多数の「ひきこもり」家族は、「ふつうの家族関係」に該当します。
親御さんが「ふつう」に結婚し、「ふつう」に就職し、「ふつう」に子どもを作って「ふつう」に育て、「ふつう」に学校にやっていたら、いつの間にかひきこもってしまった。
そして「何が悪かったんだろう・・・」と思い悩む。
これが「ふつう」の「ひきこもり」家族だと思います。
ひきこもり状態にある方のご家族の多くが「自分たちが悪かった」とご自身を責めていらっしゃるように見受けられますが、私は「いや、ふつうですよ」と思います。
悪いのは「ふつう」という概念の方だと、私は考えています。
(関連記事:苦しさの原因は「普通」という概念)
最後に、「明らかに大変」な家族関係とは、明らかな虐待があるとか、親御さんに精神疾患や依存症があるとか、そのようなご家庭です。
3.学校生活での体験が:すごくいい/ふつう/明らかに大変
4.職業生活での体験が:すごくいい/ふつう/明らかに大変
3と4は合わせて説明します。
「家族関係」と同様に「学校生活での体験」と「職業生活での体験」も、「すごくいい」「ふつう」「明らかに大変」の3通りずつに分かれます。
よって、ここまでで2×3×3×3=54通りになります。
「すごくいい」や「ふつう」の定義は、家族関係のときとほぼ同じです。
「明らかに大変」には、「いじめ」や「ブラック企業」などが当てはまります。
5.災害や大きな事故に:遭った/遭わなかった
顕著なトラウマやPTSDの有無で、さらに2通りに分かれ、計108通りとなります。
6.ひきこもった後に生じた疾患が:ある/ない
ひきこもったことで生じた2次的な疾患の有無で2通りに分かれます。
ここまでで、ひきこもりは216通りに分かれることになりました。
4つの段階
「パターン」に加えて、ひきこもりには以下のとおり「4つの段階」もあります。
これは国が支援ガイドラインの中で定めたものです。
「準備段階」(ひきこもる直前まで)
「開始段階」(ひきこもり始めた直後)
「ひきこもり段階」
「社会との再会段階」
ひとくちに「ひきこもり」と言っても、その原因や段階はさまざまで、本当に「人それぞれ」ということが分かります。
大事なのは、眼の前の人がどのパターンで、どの段階にあるのか、よく見極めることです。
パターンや段階によって適切な対応方法が異なるからです。
以下余談
余談①
私たちは生まれてから様々な「他者」たちと出会い、関わります。
その中で、意識的または無意識に、「ああ、俺って生きていてもいいんだ」と感じたり「私はこのままではダメなのか・・・」と信じ込んだりします。
私は、人は「本来のわたし」が否定されたり危機に瀕したりするとき、「本来のわたし」を大切にするための応急手段としてひきこもるのだと、私は思っています。
余談②
「他者」とは「私の思うようにならないもの」のことです。
私たちが出会う「思うようにならないもの」たちとは何なのか。出会いの順に、あるいは私たちに近い順から書くと、以下のようになります。
身体
家族(親や子)
学校(プレ社会)
職場(社会)
世界
この中で見落とされがちなのが「身体」です。
身体は一見「私たちそのもの」であるようですが、病気や障害を持つと私の意思どおりには動いてくれなくなります。
容姿も選べませんし、「老い」も私の希望とは関係なくやってきて、コントロールできません。
身体は私たちにとって最初の、ままならぬ「他者」なのです。
(関連記事:身体疾患が家族関係に与える影響)
余談③
ここまで見てきたように、ご本人にとって「どの種類の」他者との関係が「どのようで」あったかによって、ひきこもりには216ものパターンが生じます。
そして、ある種類の「他者」との関係がまた別の「他者」との関係に影響を及ぼすこともあります(例えば、アトピーが原因で家族関係がギクシャクするなど)。
何が言いたいのかというと、単一の犯人や原因は探しても見つからない、ということです。
216パターンの中で純粋に家族だけが「原因」であるものは1通りのみです。
つまり、親御さんは単純に自分を責めなくてもよいです。
(その一方でご本人には「親が悪い!」「教師が悪い!」と「語る」自由があります。親御さんには酷ですが、ご本人がそうして「自分の物語を語ること」は人間の回復に必要なことと思います。)
長くなりましたが、今日も読んでいただいてありがとうございます。
明日もうれしいこと楽しいこといっぱいあるといいですね!
↑ ひきこもり家族会での仕事をまとめて寄稿した本です。
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