薬物療法・入院中心、専門家主導の精神科医療のあり方を根本から変えると言われるオープンダイアローグ。
患者さんもご家族も、さらには支援者さえもラクになるのでは、と期待が高まっています。
とはいえ、その普及は緒についたばかり。超えねばならぬ高いハードルもあり、まだまだ時間がかかりそうです。
お住まいの地域に、オープンダイアローグを実施する病院や事業所がなかなか現れない場合、その「地域格差」を受け入れ、オープンダイアローグを利用することをあきらめねばならないのでしょうか。
私はそうは思いません。前回書いたように、お住まいの地域で、オープンダイアローグ実施の機運を高めることができるからです。
さらに、それと並行して「オンラインでオープンダイアローグ」という選択をすることもできます。
オンラインでのダイアローグのようす
オープンダイアローグの新しさの一つは、参加者が一堂に会して対話することでした。しかし、新型コロナウィルスの流行で「集まる」ことが制限される時代がやってきました。
この "コロナ禍" で一躍注目を集めたのがリモートワーク(遠隔でのお仕事)。それを支えているのが「Zoom」というインターネット会議アプリです。
最近では、テレビのバラエティ番組でも、タレントさんがZoomの画面越しに出演されていますね。
このZoomを使うと、遠隔でオープンダイアローグを実施することができるのです。
「ダイアロジカル生活ラボ」でも、オープンダイアローグ(対話ミーティング)をZoomを使って実施するようになりました。
これまでの「オンラインダイアローグ」を振り返ると、ご相談者さま側の参加者は1~9名で、Zoom上の画面は最少で2画面、最も多いときは7画面で行いました。
Zoomの画面は以下の画像のようになります。
これは「ご依頼者様」「離れて暮らすご家族」「相談室おうち」の3画面の例です。
(きゅうきょ撮影したため、「おうち」にいるワンコ・だいずさんと、黄色い「傾聴さん」にご出演いただきました。)
進行するスタッフ側の感覚としては、同じ部屋に集まって話す場合との「違い」はあるものの、いちがいにデメリットばかりではない、と感じました。
むしろ、やりやすくなった面もたくさんあるのではないかと思います。
なお、これまで実施したオンラインでのダイアローグは、今のところ概ねご好評いただいています。
オンラインのメリット6つ
始めてみて感じた、オンラインでのオープンダイアローグのメリットを挙げておきます。
その1.ふだんなら集まりづらい遠方の家族が参加できた
あるケースでは、東日本と西日本に分かれて暮らすご家族が参加することができました。ふだんであれば移動のこともあり、なかなか集まりづらかったのではないかと思います。
その2.ご相談者さまの費用負担を減らせた
移動のコストは、時間だけでなくお金の話でもあります。「ダイアロジカル生活ラボ」は民間の相談室であり、健康保険や自立支援医療などの制度が効きません(全額自費になります)。これまでは、出張で実施の場合は交通費もいただいていたのですが、オンラインになると、それを頂戴せずに済みます。
その3.「ダイアローグを連続すること」が実現しやすい
「必要なときは何日も連続してダイアローグする」というフィンランドの仕組みを実現しやすくなりました。移動時間や費用をカットできたことが大きいと思います。
その4.迅速性が増した
特に、お一人で利用される方について言えることだと思います。オンラインだと移動時間がゼロなので予定を合わせやすく、パッとカメラをつなげてしまえばすぐに話せます。その日の夕方に生じたお悩みを、その日の夜にダイアローグして解消してしまうということもできました。
その5.「聴く」と「話す」を分けやすい
オープンダイアローグでは「聴く」と「話す」を分けることが大切にされています。
誰もが発言を安全に保障され、聴いてもらえるという体験をできるように。また、相手の話を最後まで聴くことで、自分の中に豊かな「内なる対話」を呼び起こすためでもあります。
Zoomを使うと、話している人が画面に大写しにしたり、話している人以外の音声をオフにしたりすることができます。
そのことで、「あ、今は『聴く』に集中するときだ」という意識をしやすいです。
さえぎられず話せることで、「聴いてもらえた」という感じを持ちやすくなっているのではないかと感じます。
その6.それぞれのホームから参加できる安心
同じ一つの場所に集まると、そこが安心できる場所ではないと感じる参加者がどうしても出てきます。
他方で、オンラインダイアローグでは参加者それぞれが自分のおうち=homeから参加することになりますので、緊張感が少なくて済みます。
以上、パッと思い浮かぶメリットを挙げてみました。
個人的には、オンラインでのオープンダイアローグには、この他にもたくさんのメリットがあるように感じます。
オンラインならではの課題
もちろん、オンラインならではの課題もたくさんあります。
参加者がZoomを使えるようにする必要がある
スマホで参加すると、画面に全員が映らないことがある
画面の中でラクな姿勢を取りづらい
あんまり大人数(たくさんの画面数)になると、一人ひとりが小さくなる
ノンバーバル(非言語的)な情報を頼りに会話する人には、ちょっとしんどい
ダイアローグのあとの直接的な支援がしづらい
などが挙げられます。
オンラインでダイアローグを実施しています
ともあれこれは、「どちらがいい」とか「どちらかに統一すべきだ」という話ではないように、私には思えます。
新型コロナウィルスとともに生きる時代を迎え、私たちのライフスタイルは変化を迫られています。オープンダイアローグのカタチ(それは、私たちの対話のカタチでもあります)もまた、時代に合わせて変化していかなければならないのではないでしょうか。
「不確実」な情勢へ「応答」し続けること。オープンダイアローグが時代や状況に合わせてその姿を変えることは、とても対話的、オープンダイアローグ的ではないかと私は思います。
オンラインならではの課題もまた、参加者と対話しながら、これまでより時間をかけて、一つひとつ準備したり、対応したりしていけばいいのではないでしょうか。どうすれば対話ミーティングが開けるか、ということを丁寧に対話するというプロセスは、オープンダイアローグにもともと存在するものです。
コロナ禍に対応する中で生まれた、オンラインでオープンダイアローグするという選択肢。
これを、これまでの「膝を突き合わせた」オープンダイアローグが使いづらかった方たちや、オープンダイアローグの恩恵がまだ届かない地域の方々にも活用していただけたらいいなと、私は思っています。
次の記事を読む:オープンダイアローグの流れ(ダイアロジカル生活ラボの場合)
前の記事を読む:オープンダイアローグについての対話を始めてしまおう!
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